リック・クランのシグネチャークランクを作るにあたり、私はかつてのクラシックのウイニングルアーであるRC-1と3について、「何が優れているか?」という質問をぶつけました。
「No Limit」の精神
瀬川 稔(ラッキークラフトUSA社長)=語り
この記事は『Basser』2023年8月号に掲載したものを再編集しています。Basserのバックナンバーは定期購読をお申し込みいただくとデジタル版バックナンバーが4年分以上読み放題! 詳しくはこちらをどうぞ!目指すは「世界一のクランクベイト」。この連載では、ラッキークラフトUSAのルアーデザイナーと、大森貴洋、リック・クラン、スキート・リースら歴代プロスタッフが勝てるルアーを作るために繰り広げた知られざる切磋琢磨の歴史を紹介する。
以下、瀬川さん談。
◆前回:ラッキークラフトUSAの秘密兵器
そのルアーには強度とリズムが欠けていた
リック・クランのシグネチャークランクを作るにあたり、私はかつてのクラシックのウイニングルアーであるRC-1と3について、「何が優れているか?」という質問をぶつけました。新しいルアーを作るにあたり、彼が愛用したクランクを研究することは絶対に欠かせないことだからです。ちなみにコレがリック・クランとの最初のコミュニケーションでした。
返答は驚きのものでした。
「あれは使えない」
そして「材質が弱く再現性がない」と言葉少なに付け加えました(リック・クランは口数が少ないことで知られています)。私はこのわずかな手がかりから想像を広げました。この連載で何度も触れている「勝てるルアーの三原則は『サイズ』『強度』『リズム』」という原則を当てはめると、RC-1と3は勝てる強度がないのでしょう。そして、再現性とは、3回キャストして3回同じ泳ぎをしてくれるということです。そうではないとプロたちは勝つためのリズムを出すことができないんです。
3つの名言から知った覚悟
意外な返答をもらって戸惑った私は、リック・クランが勝ったクラシックをさらに詳しく調べることにしました。リック・クランというファイターアングラーの思想・行動をより深く知るためです。
するといくつかの言葉との出会いがありました。
1984年のアーカーソンリバーでリック・クランは3度目のクラシック制覇を達成しています。そのときにこんなコメントを残しています。
「私たちがどこまで秀で、どこまでいけるかには限界がある。しかし、私たちは無限の可能性を秘めた国に住んでいる。どこまでやれるかは自分次第だ。むしろ、自分のパフォーマンスに限界を作っているのは自分自身だ」
リック・クランは現在も「No Limit」という意味合いのことをよく口にします。1984年当時、この哲学をすでに持っていたことに感動しました。こういう方とお付き合いするなら、自分もファイターアングラーの優勝マインドを身に付ける必要があると思いました。
そして1990年のクラシックをリック・クランはクランキングで優勝します。ジェムズリバー(タイダルリバー)のサイプレスツリーを主戦場に、干潮時はRC-1、満潮時はRC-3というローテーションを実行しました。
ここでリック・クランが残した言葉でわたしの理解はさらに深まりました。
「私は今回、最も優勝の可能性があるエリアに集中することを決めて試合に臨んだ。私は優勝するためにここに来たのであって、5尾釣って脚光を浴びるために試合に出ているのではない」
少し補足しましょう。クラシックは大舞台で、アングラーはショーアップされたステージでウエイインを行ないます。当然、「ゼロだったら恥ずかしい」という気持ちは全員が持ちます。リック・クランはそういった考えの一切を消し去り、外してもいいからやりきるという決意を持って試合に出ていたのです。
そして最終日にビッグフィッシュをキャッチしたリック・クランはトミー・ビッフルを逆転し優勝を決めます。最後の言葉に私は完全にKOされました。
「魚が教えてくれる、釣りで学べるすべてのことを享受したい。私は釣りのプロセスすべてを親密に愛している。この環境こそ、私が最も純粋に没頭できるものだ」
リック・クランのバスフィッシングへの愛の尊さ、壮大さに私は圧倒されました。なんてすごい人と私は対峙しているんだ……。
これらの言葉を通じ、私はファイターアングラーがどれほどの覚悟を持ちエリアやルアーを選択しているのかを知ることができました。彼らは決して言葉には出しませんが、勝つために、突き抜けるために、ギャンブル性の高い釣りを選択することがあります。そのギャンブルに勝つ確率を1%でも上げるための努力と裏付けを欠かさないことがプロのプロたるゆえんです。また、私に唯一できるのは彼らの理想に1mmでも近づけるルアーを作り、勝つ確率を0.1%でも上げることです。
これらの学びを経て、私のルアー作りに対する考え方も変わっていきました。
私が作るのはルアーではなく、「勝ち方」なのだと……。
プロが優勝するための「釣れる形」を作り、または釣れるまでの「内容」を生むことが私の仕事なのだと考えるようになりました。
これがどういうことなのかは次回以降で触れることもあると思います。
さて、そんな最中、リック・クランからひとつのサンプルルアーが送られてきました。これが重い役割を果たすことになります。B
リック・クランが表紙を飾った1990年の『Basser』。この年、ジェームズリバーで開催された真夏のクラシックを制したリック・クランは私の心を打ち抜く名言を残した
RC-1とRC-3についてリック・クランに聞いた際の返答はあまりに意外なものだつた
◆第1回:すべては衝撃のひと言から始まった。「このルアー、泳いでないね」
◆第2回:勝つためのFAT CB B.D.S.2、アングラーに寄り添うB.D.S.3
◆第3回:プロに使われるルアーの絶対条件
◆第4回:「新しい振動」を探す旅のはじまり
◆第5回:ディープクランクを巡る熾烈 大森貴洋「やっぱりオレはディープはやらない」までの道のり
◆第6回:駆け出しのバスプロに寄り添うスモールクランク乱造時代
◆第7回:1尾への最短距離。“Heart of Young Angler”としてのフラットサイド
◆第8回:スキート・リースのAOYを決めた1尾
◆第9回:ポインター政権の始まりと終わり
◆第10回:ビッグジャークベイトの可能性
◆第11回:邪念と誠意のはざま/ライブポインター
◆第12回:勝てるジャークベイトの方程式
◆第13回:スレンダーポインターには誰にも言っていない秘密がある
◆第14回:ゲーリー・クラインが口にした衝撃の言葉
◆第15回:バスプロショップスが放った衝撃の矢
◆第16回:ライト&タフ7ftグラスコンポジットから学んだこと
◆第17回:ラッキークラフトUSAの秘密兵器
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