たとえば同じ形のクランク10個をそれぞれ違うフライスで作ったとしましょう。ブレなくまっすぐ泳ぎ、一番深いレンジまで入るのは最も高性能なフライスで作った個体です。それくらいプラスチック成型の精密さは水の抵抗の受け方やアクションに影響するんです。
超高性能フライスにしかできない仕事がある
瀬川 稔(ラッキークラフトUSA社長)=語り
この記事は『Basser』2023年6月号に掲載したものを再編集しています。Basserのバックナンバーは定期購読をお申し込みいただくとデジタル版バックナンバーが4年分以上読み放題! 詳しくはこちらをどうぞ!目指すは「世界一のクランクベイト」。この連載では、ラッキークラフトUSAのルアーデザイナーと、大森貴洋、リック・クラン、スキート・リースら歴代プロスタッフが勝てるルアーを作るために繰り広げた知られざる切磋琢磨の歴史を紹介する。
以下、瀬川さん談。
RC-1とRC-3
リック・クランのシグネチャークランクを作ることになった私は、リック・クランについて研究を重ねる日々を過ごしていました。そのなかで、1990年のバスマスタークラシックのウイニングルアーである「RC-1」と「RC-3」について知りたくなった……というところまで前回お話ししました。
私はこのふたつのクランクがどんなものであるかを知るため、ステイシー・キングのところにRCクランクをもらいに行き、そのあとでリック・クランに質問をぶつけました。その回答は驚きのものでした……。リック・クランの返答は次回お伝えするとして、今回はこのエピソードの重要な背景について触れておきます。
リック・クランがジェームズリバーのクラシックを制したときに使っていたのは「RC-1」と「RC-3」だった。私はこのルアーについて知りたくなった
唯一のストロングポイント
当時の私は中身のない駆け出しのルアーデザイナーでしたが、唯一、絶対の自信があるストロングポイントがありました。それはラッキークラフトの工場の高精度な製造技術です。とくに金型を作る部署には優秀なスタッフと環境が揃っていました。
私たちは数千万円のコストを投じてとある金型工作機械(フライス)を導入していました。これは某メーカーのフラッグシップマシンで、ロシアのステルス戦闘機のプロペラもこの機械で作られていたそうです。航空機を索敵するレーダーは機体の動いている部分に反応するのですが、このマシンで削ったプロペラだけは高性能すぎてアメリカ軍のレーダーにかからないと言われていました。「このフライスならファイターアングラーのための勝てるルアーを作れる」。私はそう確信していました。
では、このマシンでルアーを作るとどうなるか? ここからは正直あまり話したくない部分でもあるのですが、せっかくの機会ですのでお伝えしようと思います。あくまで私にとってですが、うまいルアー作りとは「まっすぐ泳がせる」ということです。さらに踏み込んで言うと、「一段下を」「まっすぐ泳がせる」ということになります。なぜ一段下がキーになるかはここまでこの連載を読んでくれている皆さんならおわかりだと思います。そのために必要なのが超高性能なフライスなんです。
実は、フライスの性能が低いと、プラスチックには目にみえないレベルで歪みが生じます。結果的に完成品はまっすぐ泳がせにくいものになる。たとえば同じ形のクランク10個をそれぞれ違うフライスで作ったとしましょう。ブレなくまっすぐ泳ぎ、一番深いレンジまで入るのは最も高性能なフライスで作った個体です。それくらいプラスチック成型の精密さは水の抵抗の受け方やアクションに影響するんです。
自分自身の強み
製造技術には自信がありました。では、ルアーデザイナーとしての自分自身には強みはひとつもないのか? そう自問自答する日々が続きました。釣りもわかっていない、ルアーについての理解も浅い私でしたが、3つだけ武器があると思いました。
ひとつ目は「泳ぎ出しオタク」であること。たとえば、ルアーのどこにどれくらいウエイトを置いたらどんな泳ぎ出しになるのか、という部分については私はよくわかっていました。
もうひとつは「振動マニア」であること。ルアーを巻いたら、「あ、この振動はあのモデルに近いな」などとすぐに分析することができました。
そして最後に「リックに捧げる心」を持っていること。私はこのシグネチャー企画を神聖なものだと考えていました。心の邪念を消し、知性と理性のすべてをこのプロジェクトに捧げるべく正念の修行に励んでいたのです。ちなみにサンプルを触る前は必ず手を洗っていました。心の底からリック・クランの成功を祈りながらルアーを作る心を持っていると自信を持って言えました。
さて、次回は「RC-1と3は何が優れているか?」という質問に対するリック・クランの返答を紹介します。この答えは私のルアー作りを大きく左右することになります。B
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◆第1回:すべては衝撃のひと言から始まった。「このルアー、泳いでないね」
◆第2回:勝つためのFAT CB B.D.S.2、アングラーに寄り添うB.D.S.3
◆第3回:プロに使われるルアーの絶対条件
◆第4回:「新しい振動」を探す旅のはじまり
◆第5回:ディープクランクを巡る熾烈 大森貴洋「やっぱりオレはディープはやらない」までの道のり
◆第6回:駆け出しのバスプロに寄り添うスモールクランク乱造時代
◆第7回:1尾への最短距離。“Heart of Young Angler”としてのフラットサイド
◆第8回:スキート・リースのAOYを決めた1尾
◆第9回:ポインター政権の始まりと終わり
◆第10回:ビッグジャークベイトの可能性
◆第11回:邪念と誠意のはざま/ライブポインター
◆第12回:勝てるジャークベイトの方程式
◆第13回:スレンダーポインターには誰にも言っていない秘密がある
◆第14回:ゲーリー・クラインが口にした衝撃の言葉
◆第15回:バスプロショップスが放った衝撃の矢
◆第16回:ライト&タフ7ftグラスコンポジットから学んだこと
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