私はサンダーシャッドの重さの意味を理解できた気がしました。勝てるルアーの三原則はサイズ・リズム・強度。そのリズムを作るためには小さなルアーであってもある程度の重さが必要だったのです。リック・クランがディープタイニーNのリアのフックを#4と不釣り合いなほど大きくしていたのが象徴的です。
「頭の上を平面にしてほしい。そこも水受けにして深さを稼ぎたいんだ……」
瀬川 稔(ラッキークラフトUSA社長)=語り
この記事は『Basser』2023年10月号に掲載したものを再編集しています。Basserのバックナンバーは定期購読をお申し込みいただくとデジタル版バックナンバーが4年分以上読み放題! 詳しくはこちらをどうぞ!目指すは「世界一のクランクベイト」。この連載では、ラッキークラフトUSAのルアーデザイナーと、大森貴洋、リック・クラン、スキート・リースら歴代プロスタッフが勝てるルアーを作るために繰り広げた知られざる切磋琢磨の歴史を紹介する。
以下、瀬川さん談。
◆前回:ケビン・バンダムから学んだこと
その重さがリズムを作る
リック・クランがサンプルとして送ってきたサンダーシャッドがずっしりと重かったという話で前回を締めくくりました。リック・クランは寡黙な人ですので、私はこの重さから100のことを読み解かなければなりません。まさにメタ推理ですよ。
私はサンダーシャッドを手のひらに乗せながらある試合のことを思い出しました。それは2001年のプリスポーンにレイク・マーチンで開催されたFLWツアーです。この試合で勝ったのは大森貴洋さん。師匠のリック・クランと優勝争いを繰り広げた熱い一戦でした。このときの大森さんのメインパターンはクランキング。バルサB3。リック・クランから受け継いだスクエアビルの帝王学に基づいた釣りでした。
余談ですが、大森さんは「プリスポーンのスクエアビル」、「コールドウォーターではグリーン系」。
「冷えたらマグワートにフェザーフックを付けてリアクションバイトをねらう」など、さまざまなことをリック・クランから教わったと聞いています。
話が逸れました。このときリック・クランがメインにしていたのがディープタイニーN。バックシーターは加藤誠司さんでした。このころのリック・クランはスモールベイトをビュンビュン投げて1尾ずつ拾っていく釣りを十八番としていたんです。クラシックでも脚光を浴びた有名な釣りです。
このエピソードを思い出したとき、私はサンダーシャッドの重さの意味を理解できた気がしました。勝てるルアーの三原則はサイズ・リズム・強度。そのリズムを作るためには小さなルアーであってもある程度の重さが必要だったのです。リック・クランがディープタイニーNのリアのフックを#4と不釣り合いなほど大きくしていたのが象徴的です。
また、このころのリック・クランはスポンサーの関係からロッドを変えていました。チームダイワのグラスではなく、バスプロショップスのカーボンロッドでクランキングを行なっていました。なおさらルアーの重量は大事な要素だったのかもしれません。
これらのことを推察したうえで私はリック・クランにサンダーシャッドの重さの意味について尋ねました。返答はひと言。「私はたくさんの水をカバーするからな」とだけ。ただしこれで充分。私は自分の考えに自信をもつことができました。
リックが求めたアクション
もうひとつ、私はリックになぜプラスチックのシャロークランクが必要なのか尋ねました。「ルアーの重量があればあるほどモノに当たったときの衝撃が増す。ウッドだとリップが取れてしまう」。それがアンサーでした。つまりリックは「強度」を求めたのです。
ここまで聞いて私は完璧に理解しました。リック・クランのシグネチャークランクをプラスチックで作る今回のプロジェクトの意味を。リックが求めるキャストフィール(ルアー重量)と引き心地(身体に染み込んだ「釣れる巻き心地」)を満たしたうえで、ルアーの強度を確保するところまでがワンパッケージで求められているのです。
ではリック・クランはどんなアクションを求めていたのか。それについては私はある程度察しがついていました。この連載の序盤になりますが、私がB.D.S.4を作ったとき、大森さんに「あのアクション正解です」と言われたエピソードをお伝えしました。B.D.S.4はウォブルとロールがほどよく混じったいわゆるウォブンロール。
また、リック・クランの親友でもあるゲーリー・クラインも「B.D.S.4、よくできてるな」と信じられい言葉をかけてくれていました。これらのことを耳にした背景がありリック・クランは私にクランクを作るオファーを出してくれたのだと思います。つまりB.D.S.のアクションバランスでOKなんだと理解していました。リック・クランから送られてきたサンダーシャッドのアクションもその範疇を外れるものではありませんでした。
ここまで理解したうえでリック・クランとのコミュニケーションを進めると、あるとき急に具体的なリクエストがきてギャップに驚いたことを覚えています。
「頭の上を平面にしてほしい。そこも水受けにして深さを稼ぎたいんだ……」
運命のプロジェクトは徐々に進んでいきます。B
リック・クランが送ってきたサンダーシャッドはずしりと重かった。写真はその現物である。無数の歯型が刻まれている
◆第1回:すべては衝撃のひと言から始まった。「このルアー、泳いでないね」
◆第2回:勝つためのFAT CB B.D.S.2、アングラーに寄り添うB.D.S.3
◆第3回:プロに使われるルアーの絶対条件
◆第4回:「新しい振動」を探す旅のはじまり
◆第5回:ディープクランクを巡る熾烈 大森貴洋「やっぱりオレはディープはやらない」までの道のり
◆第6回:駆け出しのバスプロに寄り添うスモールクランク乱造時代
◆第7回:1尾への最短距離。“Heart of Young Angler”としてのフラットサイド
◆第8回:スキート・リースのAOYを決めた1尾
◆第9回:ポインター政権の始まりと終わり
◆第10回:ビッグジャークベイトの可能性
◆第11回:邪念と誠意のはざま/ライブポインター
◆第12回:勝てるジャークベイトの方程式
◆第13回:スレンダーポインターには誰にも言っていない秘密がある
◆第14回:ゲーリー・クラインが口にした衝撃の言葉
◆第15回:バスプロショップスが放った衝撃の矢
◆第16回:ライト&タフ7ftグラスコンポジットから学んだこと
◆第17回:ラッキークラフトUSAの秘密兵器
◆第18回:ルアーではなく「勝ち方」の開発。
◆第19回:ケビン・バンダムから学んだこと
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