まったく同じルアーでも、「今日の正解は明日の不正解」「今日の不正解は明日の正解」ということが頻繁に起きるんです。相手が湖という自然であり、バスという生き物ですから。だからこそ、「頭の上を平面に」というリクエストに対しても、私の手は慎重にならざるを得ませんでした。この最後の仕上げにすごく大事な要素が隠れていることを確信していたからです。
ファイターアングラーたちは常に究極の出し抜きを求めている
瀬川 稔(ラッキークラフトUSA社長)=語り
この記事は『Basser』2023年11月号に掲載したものを再編集しています。Basserのバックナンバーは定期購読をお申し込みいただくとデジタル版バックナンバーが4年分以上読み放題! 詳しくはこちらをどうぞ!目指すは「世界一のクランクベイト」。この連載では、ラッキークラフトUSAのルアーデザイナーと、大森貴洋、リック・クラン、スキート・リースら歴代プロスタッフが勝てるルアーを作るために繰り広げた知られざる切磋琢磨の歴史を紹介する。
以下、瀬川さん談。
◆前回:重さがリズムを作る
あまりに微妙なルアー作りの匙加減
「頭の上を平面にしてほしい。そこも水受けにして深さを稼ぎたいんだ……」
リック・クランからのリクエストに触れたところで前回を終えました。私はこの言葉からファイターアングラーが日々考えていることや欲について考えることになりました。
彼らは常に出し抜くことを考えています。当時、アメリカでいろんなアングラーと話をしていると、やたら日本のルアーやテクニックのことを聞かれたんですよ。そしてただ聞き出すだけでなく、「誰にもしゃべらないでほしい」などと言ってシークレットにしたがる傾向がありました。彼らからしたら日本独自のテクニックは宝の山に映ったんでしょう。「バスは初見に弱い」という言葉がありますが、その「初見」を日本に求めたんです。
たとえばリック・クランがディープタイニーNを投げるときリアフックを#4にするのも出し抜くための一手です。
サンダーシャッドをベースに頭を平らにしてほしいというリクエストも同じです。彼らは常にネクストレベルの探求をしていて、使うルアーやテクニックにほんの少しのスパイス、エッセンスを入れたいと思っているのです。
ただし! この微量のスパイスの効かせ方は本当に難しい。これは非常に微妙な塩梅で、効きすぎても、少なすぎても釣れないものになってしまう。
もっと言うと、まったく同じルアーでも、「今日の正解は明日の不正解」「今日の不正解は明日の正解」ということが頻繁に起きるんです。相手が湖という自然であり、バスという生き物ですから。だからこそ、「頭の上を平面に」というリクエストに対しても、私の手は慎重にならざるを得ませんでした。この最後の仕上げにすごく大事な要素が隠れていることを確信していたからです。
私の胸に去来したのは「今日の正解は明日の不正解」を痛感したあるエピソードでした。かつて加藤誠司さんから聞かせてもらったものです。加藤さんがステイシーを作っていたとき、ある超一流のプロのところにプロトタイプを持っていきました。するととんでもなく罵倒されたそうです。「加藤君、こんなクソみたいなルアー作ったらダメだ」と。一週間後に作り直したもので再度テストをすることになりました。
しかし、当時の加藤さんはたいへん忙しい方でしたので、まったくステイシーのプロトタイプに手をつけられなかったそうです。気付けば前日……。「ヤバい!」と慌てた加藤さんは一週間前と同じものを持ちそのプロを訪れました。
すると……。
「加藤君、君は天才や!」
まるでギャグのような話ですが、決してそうではなりません。私自身も何年もルアーデザイナーをしていて、同じような経験を何度もしてきました。ファイターアングラーたちは究極の「出し抜き」を求めるがゆえに、時にその匙加減は信じられないほど微妙なものになるんです。そもそも当時の加藤さんはすでに超優秀なルアーデザイナーでしたから、そんな的外れなものを作るはずはありません。十中八九完成しているルアーの、その最後の一滴……、プロたちはそこにこだわるんです。
たとえばこのエピソードの場合、評価が180度変わったのは1週間の季節進行による水温変化が原因かもしれません。シンキングレートがわずかに変わったことで、釣れるルアーか否かの評価が分かれたのです。その方はジャストサスペンドを求めた……とか、そういうことでしょう(推測ですが)。
アングラーの感性も日々変わりますし、湖の状況やバスの状態も不変ではありません。「今日の正解は明日の不正解」という言葉を胸に、私はリック・クランとのクランク作りの本番に挑むことになりました。B
ステイシーのテスト時に起きた出来事はあまりに印象的だった
◆第1回:すべては衝撃のひと言から始まった。「このルアー、泳いでないね」
◆第2回:勝つためのFAT CB B.D.S.2、アングラーに寄り添うB.D.S.3
◆第3回:プロに使われるルアーの絶対条件
◆第4回:「新しい振動」を探す旅のはじまり
◆第5回:ディープクランクを巡る熾烈 大森貴洋「やっぱりオレはディープはやらない」までの道のり
◆第6回:駆け出しのバスプロに寄り添うスモールクランク乱造時代
◆第7回:1尾への最短距離。“Heart of Young Angler”としてのフラットサイド
◆第8回:スキート・リースのAOYを決めた1尾
◆第9回:ポインター政権の始まりと終わり
◆第10回:ビッグジャークベイトの可能性
◆第11回:邪念と誠意のはざま/ライブポインター
◆第12回:勝てるジャークベイトの方程式
◆第13回:スレンダーポインターには誰にも言っていない秘密がある
◆第14回:ゲーリー・クラインが口にした衝撃の言葉
◆第15回:バスプロショップスが放った衝撃の矢
◆第16回:ライト&タフ7ftグラスコンポジットから学んだこと
◆第17回:ラッキークラフトUSAの秘密兵器
◆第18回:ルアーではなく「勝ち方」の開発。
◆第19回:ケビン・バンダムから学んだこと
◆第20回:重さがリズムを作る
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