ここで紹介しているFAXがリック・クランからの最初のリクエストでした。以前紹介したサンダーシャッドとともに明快な指示がいくつか入れられています。この指示書は今でも私の宝物です。内容はあえて要約しないので、皆さんもぜひ楽しみながら翻訳してみてください。ヘッド部で水を受けさせたいという手書きのイラストがたまらないですよね。
Small profile & Heavy
瀬川 稔(ラッキークラフトUSA社長)=語り
この記事は『Basser』2023年12月号に掲載したものを再編集しています。Basserのバックナンバーは定期購読をお申し込みいただくとデジタル版バックナンバーが4年分以上読み放題! 詳しくはこちらをどうぞ!目指すは「世界一のクランクベイト」。この連載では、ラッキークラフトUSAのルアーデザイナーと、大森貴洋、リック・クラン、スキート・リースら歴代プロスタッフが勝てるルアーを作るために繰り広げた知られざる切磋琢磨の歴史を紹介する。
以下、瀬川さん談。
ヒントはエバーグリーンのカタログにあった
リック・クランとクランクを制作する日々のなか、私には大事にしているルーティンがありました。それはひとつのリクエストに対し、10~15個のサンプルで応えること。この習慣ができたキッカケは1990年代後半のエバーグリーンのカタログにありました。
当時のエバーグリーンのカタログには「菊元俊文さんが加藤誠司さんのルアー作りをいかに信頼しているか」という内容の文章が乗っていたんです。菊元さんが「こういうルアーが作りたい」というリクエストを加藤さんに出すと、加藤さんは10個以上のサンプルでその要求に応答したそうです。前回のこの連載で「今日の正解は明日の不正解かもしれない」という話をしましたが、繊細過ぎるニュアンスで戦うプロたちにとって、「ひとつのコンセプトに10~15個の答えがある」という状況がとても好ましいものでした。
私はこの話に強い感銘を受けました。
当時の私には加藤さんほどの感性や経験、能力はありません。ならば「やり方」だけでも学ぼうと思ったのです。ルアー作りの知識や経験は頼れるプロスタッフに埋めてもらい、私たちは「やり方」を徹底的に鍛え上げ総合力で勝負しようと思ったのです。
サンダーシャッドから読み取った裏コンセプト
ここで紹介しているFAXがリック・クランからの最初のリクエストでした。以前紹介したサンダーシャッドとともに明快な指示がいくつか入れられています。この指示書は今でも私の宝物です。内容はあえて要約しないので、皆さんもぜひ楽しみながら翻訳してみてください。ヘッド部で水を受けさせたいという手書きのイラストがたまらないですよね。
2004年4月8日9時40分。リック・クランから一枚のFAXが届いた。「enclosed lure」とは同封されていたサンダーシャッドのことだ
この指示に対して10~15個のサンプルで応えるのは当然として、私はルアーに「うま味」をくわえたいと思っていました。料理には「甘味」「塩味」「苦味」「酸味」がありますが、日本食にはさらに「うま味」があります。では今回のクランクプロジェクトにおけるうま味とは何か……。
「やり方」はエバーグリーンのカタログから学ばせてもらいました。アクションに関してはゲーリー・クラインや大森貴洋さんに高く評価されたB.D.S.の泳ぎを追求した先に答えがある確信もありました。あとはうま味です。
この指示書と同封のサンダーシャッドを何度もチェックし、私はある仮説に辿り着きました。これは明記されていることではなく、私のなかでひそかに感じていたシークレット・サブタイトルです。
それは「スモール・プロファイル&ヘビー」。
小さくて重いということです。サンダーシャッドが大きさのわりにズシリと重いという話は以前も紹介しましたよね。試合中の叩かれた状況下でもバイトを得やすいスモールサイズと、それでもなおキャストのリズムを作れる重量がリック・クランにとっては大事なのではないかと私は感じました。
結果的にその仮説は正しかったのですが、ここでひとつ付け加えておきたいことがあります。それは、この隠れコンセプトはあくまで2004年当時のリック・クラン、当時のツアーだからこそ生まれたものだということ。試合のレギュレーションや開催地、アングラーのスタイルが変われば答えは変わります。ルアーデザインに絶対性もなければ再現性もなく、理屈もないのです。
「スモール・プロファイル&ヘビー」は、あの瞬間にあの場所でしか生まれないリック・クランのアートだったと私は考えています。「正解のルアー」はあまりに刹那的であり、だからこそ芸術なんです。B
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◆第1回:すべては衝撃のひと言から始まった。「このルアー、泳いでないね」
◆第2回:勝つためのFAT CB B.D.S.2、アングラーに寄り添うB.D.S.3
◆第3回:プロに使われるルアーの絶対条件
◆第4回:「新しい振動」を探す旅のはじまり
◆第5回:ディープクランクを巡る熾烈 大森貴洋「やっぱりオレはディープはやらない」までの道のり
◆第6回:駆け出しのバスプロに寄り添うスモールクランク乱造時代
◆第7回:1尾への最短距離。“Heart of Young Angler”としてのフラットサイド
◆第8回:スキート・リースのAOYを決めた1尾
◆第9回:ポインター政権の始まりと終わり
◆第10回:ビッグジャークベイトの可能性
◆第11回:邪念と誠意のはざま/ライブポインター
◆第12回:勝てるジャークベイトの方程式
◆第13回:スレンダーポインターには誰にも言っていない秘密がある
◆第14回:ゲーリー・クラインが口にした衝撃の言葉
◆第15回:バスプロショップスが放った衝撃の矢
◆第16回:ライト&タフ7ftグラスコンポジットから学んだこと
◆第17回:ラッキークラフトUSAの秘密兵器
◆第18回:ルアーではなく「勝ち方」の開発。
◆第19回:ケビン・バンダムから学んだこと
◆第20回:重さがリズムを作る
◆第21回:今日の正解は明日の不正解かもしれない
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