リック・クランが本当に欲しかったのは1.5サイズだったのか?前回はそんな私の疑念で締めさせていただきました。この疑問を巡る「旅」は次回以降たっぷり伝えていくとして、今回はRC1.5誕生直後の話をしたいと思います。RC1.5の最終プロトタイプに対してリック・クランのOKが出たときの私の気持ちは歓喜というより安堵でした。
「RC」への拒絶反応から感じたファイターアングラーの青春
瀬川 稔(ラッキークラフトUSA社長)=語り
この記事は『Basser』2024年1月号に掲載したものを再編集しています。Basserのバックナンバーは定期購読をお申し込みいただくとデジタル版バックナンバーが4年分以上読み放題! 詳しくはこちらをどうぞ!目指すは「世界一のクランクベイト」。この連載では、ラッキークラフトUSAのルアーデザイナーと、大森貴洋、リック・クラン、スキート・リースら歴代プロスタッフが勝てるルアーを作るために繰り広げた知られざる切磋琢磨の歴史を紹介する。
以下、瀬川さん談。
◆前回:神の設計図
歓喜ではなく安堵
リック・クランが本当に欲しかったのは1.5サイズだったのか?
前回はそんな私の疑念で締めさせていただきました。この疑問を巡る「旅」は次回以降たっぷり伝えていくとして、今回はRC1.5誕生直後の話をしたいと思います。
RC1.5の最終プロトタイプに対してリック・クランのOKが出たときの私の気持ちは歓喜というより安堵でした。
かつてこの連載でB.D.S.4を完成させたときのエピソードをお伝えしたことがありました。それまでダメ出しばかりだった大森貴洋さんから「この動き、正解です」と留守番電話をもらった話です。この留守番電話を空港で聞いて家に帰るまでの車のハンドルの軽さはいまだに忘れられません。最高に嬉しかった。
対して、今回のRC1.5に関してはプロジェクト開始時から「ある程度やれるはず」というかすかな自信がありました。そしてリック・クランとバスプロショップスというあまりに大きい相手がいたがゆえに、完成時の気持ちは嬉しさより安堵感が先に立ったことを覚えています。
TOのクラシック優勝を巡って
RC1.5が完成したのは2004年の秋。そうです。大森さんが8月のバスマスタークラシックを制したのと同じ年です。当時のアメリカでスクエアビルは大人気というわけではなく、どちらかといえば一時的に人気が落ち着いていたタイミングでした。しかし、大森さんの優勝があまりに衝撃的だったことで状況が一変。最終日のラスト5分にバグリーB2で連発して勝ったわけですから……。その優勝劇は「IKnewit!!」というセリフとともに広がり、全米のアングラーが「シャロ―カバーでクランク投げなきゃ」というマインドになったのです。
印象に残っている出来事があります。大森さんが優勝した直後、バスプロショップスの上層部から電話がかかってきました。
「オオモリが使っていたのはRCなのか?」
当時、すでにRCのプロトタイプは完成しており、大森さんの手にも渡っていました。
あれはバグリーのB2だと伝えたところ、「メディアではなんと発表するんだ?」と聞かれましたが、私は「大森さんは正直な方なのでB2と言うはずです。皆さんにはB2を買ってもらいましょう」と答えました。
そんな一幕はありましたが、シャロークランクブームのなか登場したRC1.5は発売直後から大ヒットしました。
「RC」への拒絶
いい話ばかりではありません。RC1.5が世に放たれたあとはねたみやひがみが渦巻いていました。この連載で再三紹介してきたように、これまでのラッキークラフトのクランク作りでは多くのプロスタッフからアドバイスやリクエストをもらっていました。彼らからしたら、そういった過程の集大成がRC1.5であり、「自分こそあのクランクのキーマンだ」という意識をもっていたアングラーがたくさんいたのです。ゆえにかなり多くのプロスタッフが「RC」という名前に拒絶反応を示しました。
私はその反応を受けて「困ったな」と思いましたが、一方でそういう意見が出てくることに対するポジティブな気持ちもありました。
何度もお伝えした通り、我々がともにルアーを作っているのは「ファイターアングラー」なのです。彼らは負けたくないという気持ちをもち、「自分こそ」という思いが強く、そして「他人を認めたくない」という強烈な性格を持ち合わせています。ゆえに極端な屁理屈や批判をぶつけてくることもありました(「RC」の件もまさにそうです)。
私はそういった感情は勝つために必要な才能だと思っています。他人をディスったりする生々しさこそファイターアングラーの青春なんです。最近の若者は本当に性格のいい方が多くて素晴らしいんですが、当時のことを思い出すと一抹の寂しさもありますね。
さて、RC1.5誕生直後の話をいろいろとしましたが、一番の感情は感謝です。プロを心底応援して彼らの思いに応えたいという気持ちがラッキークラフトという会社の根底に流れています。RC1.5誕生にあたっては、現場の制作責任者から金型担当者まで、全社員が一丸となって完成まで全力を尽くしてくれました。それがあったからこそ完成したルアーだと思っています。最終回っぽい締めですが、RCの秘話はまだまだ続きます。お楽しみに。
RC1.5の初期パッケージ(2代目)。1.5は発売直後から大ヒットになった
RC1.5誕生から数年後に出したリック・クランセレクションのパッケージ。サイズラインナップが揃うまでにさまざまな出来事があった。それは次回以降お伝えしたい
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◆第1回:すべては衝撃のひと言から始まった。「このルアー、泳いでないね」
◆第2回:勝つためのFAT CB B.D.S.2、アングラーに寄り添うB.D.S.3
◆第3回:プロに使われるルアーの絶対条件
◆第4回:「新しい振動」を探す旅のはじまり
◆第5回:ディープクランクを巡る熾烈 大森貴洋「やっぱりオレはディープはやらない」までの道のり
◆第6回:駆け出しのバスプロに寄り添うスモールクランク乱造時代
◆第7回:1尾への最短距離。“Heart of Young Angler”としてのフラットサイド
◆第8回:スキート・リースのAOYを決めた1尾
◆第9回:ポインター政権の始まりと終わり
◆第10回:ビッグジャークベイトの可能性
◆第11回:邪念と誠意のはざま/ライブポインター
◆第12回:勝てるジャークベイトの方程式
◆第13回:スレンダーポインターには誰にも言っていない秘密がある
◆第14回:ゲーリー・クラインが口にした衝撃の言葉
◆第15回:バスプロショップスが放った衝撃の矢
◆第16回:ライト&タフ7ftグラスコンポジットから学んだこと
◆第17回:ラッキークラフトUSAの秘密兵器
◆第18回:ルアーではなく「勝ち方」の開発。
◆第19回:ケビン・バンダムから学んだこと
◆第20回:重さがリズムを作る
◆第21回:今日の正解は明日の不正解かもしれない
◆第22回:隠されたコンセプト
◆第23回:神の設計図
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