前回はRC1.5の完成までをお話ししました。私たちラッキークラフトと大森貴洋さんをはじめとするプロスタッフが積み重ねたクランクの知見、そしてリック・クランの願いとバスプロショップスのリクエストが融合してひとつのスクエアビルの「形」ができました。
神のクランクは沈んだ――
瀬川 稔(ラッキークラフトUSA社長)=語り
この記事は『Basser』2024年1月号に掲載したものを再編集しています。Basserのバックナンバーは定期購読をお申し込みいただくとデジタル版バックナンバーが4年分以上読み放題! 詳しくはこちらをどうぞ!目指すは「世界一のクランクベイト」。この連載では、ラッキークラフトUSAのルアーデザイナーと、大森貴洋、リック・クラン、スキート・リースら歴代プロスタッフが勝てるルアーを作るために繰り広げた知られざる切磋琢磨の歴史を紹介する。
以下、瀬川さん談。
◆前回:「RC1.5」誕生直後
幻の200個
前回はRC1.5の完成までをお話ししました。私たちラッキークラフトと大森貴洋さんをはじめとするプロスタッフが積み重ねたクランクの知見、そしてリック・クランの願いとバスプロショップスのリクエストが融合してひとつのスクエアビルの「形」ができました。
2004年から2005年にかけて「RC1.5」(ボディー長60mm)と「2.5」(70mm)を発売しました。これはごくオーソドックスでありがちなサイズ展開ですよね。この順番に関してはリック・クランというよりバスプロショップスの意向が強かったのではないかと私は思っています。
というのも、リック・クランといえばやっぱりディープタイニーN(48mm)のイメージでした。「スモールプロファイル&ヘビーなクランクでたくさんの水をカバーする」。これこそがリック・クランのスタイルであり勝ち方でした。
と、そう思っていたところに入ってきたリック・クランの次のリクエストは「0.5」でした。「1.0」をすっ飛ばしていきなり「0.5」だったことが少し意外でした。
私は2mm刻みで5サイズのサンプルを作りリック・クランに送りました。そして指定されたのが48mm。60mm、70mmときて次は48mmだったので「アレッ!?」と思った記憶があります。「0.5」というより「0.4」と言うべきサイズ感ですが、まぁ、神の言うことには従おうと考えました。何かインスピレーションがあったはずです。
ボディーは48mmサンプルに決定したので、内部構造別に12~20タイプのプロトタイプを製作してリック・クランに渡しました。するとすぐに「コレだ!」という返事が返ってきたのでそのサンプルを発売することにしたのです。
リリース直前の最終プロトタイプを200個作ってカラーラインナップも決定。そこで事件が起こります。
私はいくつかのプロトを日本の鈴木美津男さんに送っていました。当時から美津男さんは本当に強くて、利根川のTBCで優勝したりAOYを獲ったりと大活躍でした。シャロークランクの使い手としてのイメージがとくに鮮烈でしたね。大森さんには「泳いでない」とバッサリ切られたFAT CB SRでTBCを優勝してくれた思い出もあります。
そんな美津男さんから返ってきたRC0.5の感想は衝撃的なものでした。
「このクランク、沈むよ!!」
本当にビックリしました。まさか神様が指定してきたサンプルに欠陥があるとは私は思いもしていなかったのです。慌てて最終プロトをチェックしてみると、たしかにすべてシンキングになっていました。ちなみにフックはアメリカ仕様でフロント#6、リアが#5とバカみたいにデカいです。当然ねらったわけではなくチェック漏れです。
私はすぐにリック・クランに確認をとりました。「沈むけど本当にコレでいきますか」と。すると神は「イインダ」と即答。
しかしですよ。当時はクランクは強浮力こそ正義と信じて疑われていませんでした。リック・クランはOKを出しても、販売するバスプロショップスはなんと言うか? 相談した結果、バスプロショップスはやはりフローティングを希望したため最終プロトは土壇場で変更になりました。
結果的に「幻の200個」となったシンキングのRC0.5ですが、リック・クランがシンキングを指定した理由はよくわかります。「スモールプロファイル&ヘビーなクランクでたくさんの水をカバーする」というスタイルを考えると、キャスタビリティーは何より重要でした。そしてそもそも、浮力でカバーをかわすようなシチュエーションではRC1.5や2.5を選ぶので、リック・クランはRC0.5には浮力による回避性能は求めていなかったのです。もっと言うと、当時はグラスロッドとブレイデッドライン(PE)のセッティングでカバークランキングをすることが流行していましたし、リック・クランもそうしていました(発祥は大森さんのPE&バイブレーション)。なので、根掛かりしたらフックを伸ばして回収することが可能だったのです。こうすればそのカバーを潰すことなく次のキャストに移れます。これは私たちが細めのVMCフックを使っていた理由でもあります。こうした背景もあってのシンキングチョイスだったのではないでしょうか。
販売上の都合はさておき、神が求めたことは理にかなっていたと私はいまだに思っています。
そして、この一連の出来事は、治外法権ともいえるリック・クランの摩訶不思議伝説のはじまりにすぎませんでした。
RC0.5とディープタイニーNのボディーサイズはほぼ同じ。しかし、RC0.5のほうが1gほど重い(スプリットリングとフックを外した状態で実測/個体差あり)
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◆第1回:すべては衝撃のひと言から始まった。「このルアー、泳いでないね」
◆第2回:勝つためのFAT CB B.D.S.2、アングラーに寄り添うB.D.S.3
◆第3回:プロに使われるルアーの絶対条件
◆第4回:「新しい振動」を探す旅のはじまり
◆第5回:ディープクランクを巡る熾烈 大森貴洋「やっぱりオレはディープはやらない」までの道のり
◆第6回:駆け出しのバスプロに寄り添うスモールクランク乱造時代
◆第7回:1尾への最短距離。“Heart of Young Angler”としてのフラットサイド
◆第8回:スキート・リースのAOYを決めた1尾
◆第9回:ポインター政権の始まりと終わり
◆第10回:ビッグジャークベイトの可能性
◆第11回:邪念と誠意のはざま/ライブポインター
◆第12回:勝てるジャークベイトの方程式
◆第13回:スレンダーポインターには誰にも言っていない秘密がある
◆第14回:ゲーリー・クラインが口にした衝撃の言葉
◆第15回:バスプロショップスが放った衝撃の矢
◆第16回:ライト&タフ7ftグラスコンポジットから学んだこと
◆第17回:ラッキークラフトUSAの秘密兵器
◆第18回:ルアーではなく「勝ち方」の開発。
◆第19回:ケビン・バンダムから学んだこと
◆第20回:重さがリズムを作る
◆第21回:今日の正解は明日の不正解かもしれない
◆第22回:隠されたコンセプト
◆第23回:神の設計図
◆第24回:「RC1.5」誕生直後
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